『勝部先輩勝部先輩ってうるせえっつってんだよ俺は。ハルはどうなんだよ、ハルがハルの気持ち考えてやらないで誰が考えてやるんだよ!』
「・・・・・・」
『───相手ばっかり考えないで、ちゃんと自分の気持ち見てやれよ』
アオが真っ直ぐに真剣に、私に言葉をぶつける。それはあまりにも温かくて優しくて、強くて。いつの間にか自分でも気付かぬうちに蓋をしていたものがアオの言葉によってこじ開けられる。
呆然としたままの私に、アオは切なげに私の頬を撫で顔を歪めると、切実な声を絞り出した。
『──・・・頼むから。誰かのために、 ハルが無理して笑うなよ』
私のためだけに落とされた言葉。私は下唇をギュ、と噛み締め、それからゆっくりとアオに口角を上げてみせる。それにまたくしゃりと歪んだアオの端正な顔。
「ありがとう、アオ」
その綺麗な肌を撫でて、私は力のないアオを退けてゆっくりと立ち上がる。お決まりの窓に向かって歩き出す。
ここから、ずっと見てた。これからもずっと見ていくものだと思っていた。いやきっと、性懲りもなく見てしまうのだと思う。
とても、好きな人。
窓から覗いたそこには、校舎側の校門に向かって手を繋いで歩く2人の男女の姿。
その一方的に見慣れた後ろ姿に、はにかむ横顔は残念ながら私は初めて見た。そんなに頬を染めて、嬉しそうに、愛おしそうに彼女を見つめて微笑む勝部先輩の顔は、初めて見る。