『信じらんねえ、こんなか弱いイケメンに首締めるなんて。さすが返り血ナース』
「うるせえ自惚れクズ野郎」
首を抑えて苦しそうに唸るアオから顔を逸らして故原くんと夏子の方へ視線を戻すが、居ない。何処にも居ない。
いつも閑散とした廊下も今日は特別だ。とても賑わっているので廊下の先など見えない。
「どっか行っちゃった」
『もともとそれが狙いだろ、特に拓人は。さっさと俺らも腹満たそう。あ、アイツ、藤井って何組だっけ?』
「まあ、そうだね。えー、私まだお腹空いてない。アオのポケットに入ってんのパンフレットでしょ、貸して」
『たらりら〜、パンフレットーっ!』
「はいはいはい」
『何その塩対応ひっど!』
4次元ポケットでも何でもないただのポケットから出されたパンフレットをアオから奪って、佳菜子ちゃんのクラスを探す。確か彼女は駄菓子屋さんをやると言っていた。
「あ、あったあった。1年2組だってさ。駄菓子屋さんってことは風船ガムあるんじゃん?」
『マジでか!わーいっ!』
「いや、先に佳菜子ちゃんに土下座しろよな、お前」
『ハルも一緒にやろうな』
「やだよ嘘ついたのアオじゃんなんで私まで」
『俺ら友達でしょ!?』
「でーたー。都合の良い時だけ発動する“オトモダチ”〜!」
『あははっ、それな。・・・え、待って俺らって都合の良いオトモダチじゃないよね?』
「えっ?」
『えっ?』
「・・・・・・」
『やめてやめて何その沈黙紫春くん泣くよ!』
「あはっ、ばーかー」
2人でけらけら笑いながら色んな誘い文句を適当に返して進む。1年2組に辿り着き、何気なく教室に足を踏み入れれば何処よりも過疎化したそこにアオと2人で思わず無言になる。