ふふっ、と高田くんはおかしそうに目を細めた。

私の大好きな表情だ。


「ポテトチップスといえばうすしお以外ありえない、っていう硬派な男が理想のはずなのに、のりしおを選んじゃった微妙な俺を、好きになっちゃってくれてたら、嬉しいなと」


私が、高田くんを、好きに。


一言ずつ頭の中で整理しながら口を半開きにしていると、高田くんがふいにポテトチップスの袋をひらいて、私の口にのりしおを差し込んできた。


「どう? おいしい」


柔らかくたずねられて、「おいしい」と即答する。

ふははっ、と高田くんが笑った。


「うすしお美味しいけど、たまにはのりしおもどうですか」

「……いいと思います」

「おっ、まじで? それ、都合よく解釈しちゃうよ」


私は熱くなった頬を押さえながら、「どうぞしてください」と言った。

高田くんが嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


ああ、好きだな、と思った。

高田くんが好きだ。


うすしおじゃなくてのりしおを買ってきたとしても、やっぱり、この笑顔と雰囲気は、私を虜にして離さない。



恋って、そういうものなのかも。

頭で考えるものじゃないから、自分の心なんて思い通りにはならないから。


だから、『する』ものじゃなくて、『落ちる』ものなんだ、恋は。


そんなことを知った、22歳の冬の終わり。


食卓の上で、ポテトチップスのりしおが静かに私たちを見上げていた。