――ちがう。

こんなの、言い訳だ。


私は、ただ、彼と手紙のやりとりをしてみたいという気持ちに勝てなかった。


封筒から桜の花びらが舞い落ちたのを見た瞬間、私の胸の中でなにかが弾けて、

会ったことも話したこともない彼に、どうしようもなく心を惹かれてしまったのだ。


そして、罪を犯そうとしている。

自分は吉岡さんではないと、靴箱を交換しているのだと、本当のことを書くべきなのに、

吉岡さんのふりをして返事を書くなんて。


それは、手紙の彼を騙すことだ。

最低だ。

許されないことだ。


私は、自分が書いた手紙をぎゅっと胸に押しつけた。


やっぱり、やめよう。

こんなことしちゃだめだ。


でも、そのとき、ふわりと風が吹いた。

頭上の桜の梢がかすかに音を立てる。


見上げると、視界いっぱいに淡い白紅色の花びらが舞い踊っていた。


桜吹雪に包まれる。

ふわっと心が軽く、温かくなった。


桜に、許された気がした。


「……お願いします」


私はそう呟いて、大事に持ってきた手紙を、幹の割れ目にそっと差し込んだ。


どうか、この手紙が彼に届きますように。

彼が読んでくれますように。


返事が来てくれますように。


いけないことだと、分かっていたけれど。

私はそう願うことをやめられなかった。