『はじめまして。

君に一目惚れしました。


いきなり「付き合ってください」というのもおかしいと思うので、よかったら文通をしてくれませんか。

僕のことを知ってもらうためにも、手紙友達から始められたらな、と思います。


もし文通をしてもいいなと思ってくれたのなら、校門の桜の幹に細い割れ目があるので、そこに返事を入れてくれると嬉しいです。


追伸

とても綺麗な桜の花びらが落ちているのを見つけたので、同封しておきます。

春は優しくて幸せな気分になりますね。』



なんて素敵な手紙だろう。

私は便箋を胸に抱いて瞼を閉じた。


丁寧で控えめで、少しも押しつけがましくない文面。

ひっそりと同封された、春のおすそわけ。


きっと、この手紙を書いたのは、すごくすごく優しくて、豊かな心をもった素敵な男の子なんだろうな。


風が吹いて、髪が頬を撫でていく。

私は瞼を開けて、風に飛ばされてしまわないよう、花びらを手のひらで包んだ。


スケジュール帳を開いて、四月のページに桜の花びらをそっとのせる。

そこに手紙もはさんで、ページを閉じる。



――恋に、落ちた瞬間だった。


手紙を書いた彼に。

吉岡さんに恋している彼に。


けっして叶わない、不毛で無謀な恋。


それでも諦められなくて、私は――罪を犯した。