彼が校門のほうへ歩き出したので、私はその背中を追う。


「でもさ……俺、思うんだ」


明るい笑顔で初夏の空を見上げながら、彼が言った。


「俺たちは、どっちも嘘つきだったけど」

「……うん」

「でも、手紙のなかには、真実があったんだよな」


隣に並んで彼を見上げると、柔らかい微笑みに包まれた。


「俺は、手紙のなかの君の優しさとか繊細さとかを好きになったんだ。それって、君の心がそのまま現れたものだろ? だから、俺は君の心そのものを好きになったんだよ」


私は大きくうなずき、「私も」と答えた。


「顔も声も知らなくても、あなたのこと好きになったの。丁寧な字とか、優しい言葉とか、素敵な贈り物といっしょに手紙をくれるところとか、そういうところを好きになったの」


彼は照れたように「ありがとう」と言った。


「じゃあ、俺たち、両想いってことか」


その言葉が妙に気恥ずかしくて、すこし俯く。

すると彼は笑って、「こっち向いてよ」と言った。


「まずは、お互いの名前から教え合おうか」

「あ……そっか」


名前も知らずにお互いに好きになったのだと思うとおかしくて、私は笑った。

彼も笑った。


二人ぶんの笑い声が、空へと弾けていく。


「一緒に……帰ろうか」

「うん」


照れたような彼の言葉に、私は大きく頷く。

こんな幸せが自分に訪れるなんて、ついさっきまでは思いも寄らなかった。

こんな不思議なことってあるんだ。


手紙がつなげてくれた縁だと思った。

嘘から始まった手紙だったけれど、その中には真実だけが詰まっていた。

そして、きっと出会わなかったはずの私たちが出会った。


家に帰ったら、ちゃんとお礼を言おう。

私たちをつなげてくれた手紙たちに。

私たちに幸せをくれた手紙たちに。