「君を騙してるのは申し訳ないと思ったけど、君との文通がすごく楽しくて……なかなか打ち明ける覚悟が決まらなかった。どんどん君のこと好きになっちゃって、嫌われたくないって思っちゃってさ」


私はこくりと頷いた。


「私も……」


囁くように言う。


「私も、手紙をやりとりするうちに、どんどん惹かれていって……。吉岡さんのことが好きって分かってるのに、好きになっちゃって」


声が震えた。

彼が「ごめん」と小さく呟く。


「俺、自分のことで頭がいっぱいだった。君からの手紙が嬉しくて、楽しくて、君の気持ちは全然考えてなかった」

「え?」

「つらい思いさせて、ごめん。もっと早く言えば良かった。手紙を書いてるのは俺で、俺が好きなのは君だって」


嬉しいのに、なぜだか泣けてきて、視界が滲んできた。

私はハンカチをとりだそうと鞄を開く。

その拍子に、しおりが落ちた。

桜の花びらを押し花にしたしおり。


「あ、それ」


彼が嬉しそうに声をあげる。


「本当にとっててくれたんだ。嬉しい。がんばってきれいな花びら選んでよかった」


心から嬉しそうに、顔をくしゃくしゃにして笑う彼。


手紙のやりとりをしながら思い浮かべていた顔と、まったく同じだった。

穏やかで優しくて。


私は、彼が好きだ。


「ばかだよなあ、俺たち」


彼がくすくすと笑う。

私もつられてふふっと笑った。


「お互いに他人のふりして、相手に嘘ついてると思いながらずっと手紙を交換してたなんて」

「ほんと……驚いた」

「間抜けだよな」