「木佐貫は俺に代筆を頼んで吉岡さんにラブレターを送ったんだけど、結局、やっぱり告白は直接すべきだよなって言って、その日のうちに吉岡さんを呼び出して告白したんだ」

「そうだったの……」

「残念ながらふられたけど。あいつはまだ未練あるみたいで、チャンスがあればまた告白するつもりらしい」


今でもいつも吉岡さんのことを目でおっている木佐貫くんの姿が目に浮かぶ。

本当に彼女のことが好きなんだ。


「で、木佐貫がふられちゃったし、手紙のことはもう終わりだなって思ってたんだけど、いちおう確認、と思って、次の朝、俺ひとりで桜の木を見に来てみたんだ」

「………」

「そしたら、手紙があったから……驚いたよ。それで、思わず開いてみたら、」


彼は柔らかく微笑みながら私を見る。


「君からの手紙だった」


一度落ち着いたはずの鼓動が、また高鳴ってくる。


「吉岡さんじゃないのはすぐに分かったよ。筆跡が違うし、内容も、前日に木佐貫をふった女子のものとは思えなかったし」

「………」

「だから、おかしいなと思いながら玄関に行ったら、吉岡さんの場所のはずの靴箱から上履きを取り出してる君を見つけた。それでやっと、手紙を違うひとに送っちゃったことに気がついたんだ」


想像も及ばなかった展開についていくのがやっとで、私は黙って話を聞いていることしかできなかった。


「それで、君に真実を打ち明けて終わりにしようと思ったんだけど……君の手紙があんまり素敵だったから、それで終わりにするのが惜しくなって」


風が吹いて、彼の前髪をさらりと揺らしていく。


「君のことをもっと知りたくなって。だから、なにも知らないふりをして、俺が返事を書いちゃったんだ。ごめんな」