「本当に……ごめん」


目の前の彼は、心から申し訳なさそうに眉を寄せて私に謝った。

見知らぬ彼になぜ謝られているのか理解できなくて、私は反射的に答える。


「いいよ、そんな謝らなくて……顔あげて」


彼が眉をさげて微笑んだ。

優しい顔だな、と思った。


頭上で梢の揺れる音がする。

私たちは今、校門の桜の木の下にいた。

もちろん、もう花は散って、今は柔らかそうな明るい緑の葉がついている。


「あのさ……俺なんだ」


ぽつりと彼が言った。

なんのことか分からず、言葉の続きを待って彼を見つめる。


「手紙書いてたの、俺なんだ」

「え……っ?」


予想さえしていなかった言葉に、私は目を見開いた。

彼は頭をくしゃりとかきながら、ぽつぽつと話を続ける。


「ずっと嘘ついててごめん……」


心から申し訳なさそうな表情と声音だった。


「最初の一通目の手紙だけは、木佐貫に頼まれて代筆したんだ。あいつ、字が下手だからとか言って気にしててさ、告白するならきれいな字のほうがいいから頼むって言われて」

「うん……」

「でも、あいつに頼まれて書いたのは、最初の『一目惚れしました』ってやつだけ。あとの手紙は、あいつにも黙って、俺が書いてた」

「なんで……そんなこと」


思わず訊ね返すと、彼は気まずそうにちらりと私を見て、言った。


「好きに……なったから」