「……へ?」


思わず間抜けな声をあげてしまってから、はっと気づく。

もしかして、嘘をついていた私に怒って、手紙のやりとりをしていたという事実さえ、なかったことにしたいとか。


そう考えた瞬間、目の奥のほうがぎゅうっと痛くなって、目頭が熱くなった。

やばい、泣いちゃいそう。

ぐっと唇を噛んでこらえる。


とにかく、謝ろう。

許してもらえるかは分からないけど、せめて彼の怒りがおさまるまでは。


「ごめんなさい……嘘をついて、騙して、ごめんなさい」

「ええと……ごめん、本当に分からない。騙された覚えなんてないんだけど」

「……え?」

「人違いじゃないかな」


……人違い?

やっぱり、私のことなんて、なかったことにしたいのかな。


言葉もなく木佐貫くんを見つめていたとき、突然横から「ごめん!」という声がした。

反射的にそちらに目を向ける。

木佐貫くんの友達の彼が、私をまっすぐに見つめていた。


「ごめん、俺のせいだ」


そう言って彼が私に頭を下げる。

わけがわからず、ぼんやりと見ていたら、彼は木佐貫くんに目を向けた。


「ごめん木佐貫、詳しいことは今度説明するから」

「あ、うん……」

「俺、たぶん今日は行けないから、あいつらによろしく。じゃ」


彼は早口にそう言って、私に向き直ると、


「はじめまして」


と微笑んだ。それから、


「―――ちょっと、時間、いい?」


私は混乱したまま、無意識に頷いた。