そうして私たちの、誰にも秘密の文通が始まった。

一日一通ずつ、桜のポストに手紙を入れておく。


『ペットは飼っていますか』

『好きな色は何ですか』

『休みの日には何をしていますか』

『何か習い事などしていますか』

『今夜の晩ごはんはオムレツでした。君の家はどうでしたか』

『好きな教科は何ですか。苦手な教科は何ですか』


そんな、なんでもない質問と回答のくりかえし。

それと、贈り物のやりとり。

彼は手紙だけじゃなくて、道で見つけたきれいな小石や四つ葉のクローバーを同封してくれた。

お返しに私は写真を贈る。


そうやって少しずつ互いのことを知っていった。

顔も、声も知らないのに、私は日に日に彼のことに詳しくなっていく。


最初の一通目の手紙を読んだときに思ったとおり、彼はいつも丁寧で礼儀正しくて、穏やかで優しいひとだった。

家族に対する思いやりや、友達を大事にしていることが、手紙の文面の端々から伝わってきて、――私はどんどん、彼のことを……好きになっていった。


彼は私に手紙をくれているんじゃない。

吉岡さんに送った言葉たちなんだ。

彼がこんなに優しく語りかけている相手は、私じゃなくて吉岡さんなんだ。


頭では分かっているのに、心が言うことを聞いてくれなくて、私は一日中、彼のことばかり考えるようになってしまっている。


彼は今、何の授業を受けているんだろう。

今度は何の写真を送ろうかな。


そんなことを考えているうちに、いつのまにか一日が終わっているのだ。