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淡い青空に穏やかな風が吹きわたり、桜の花びらがふわふわと舞っている。
明るくて優しい、春の朝。
窓から射し込む柔らかい光に照らされた、まだひと気のない静かな生徒玄関。
靴箱のふたを開けた瞬間、驚きで、どきんと心臓が飛び跳ねた。
上履きの上にそっと置かれた、白い封筒。
しゃがみこんだまま、しばらく呆然とそれを見つめていたら、
「なに固まってんの? 邪魔なんですけどー」
吉岡さんの声が降ってきて、私は反射的に顔をあげた。
迷惑そうな表情で見下ろしてくる彼女の顔は、今日も、女の私でも見とれてしまいそうなほど可愛くて綺麗。
「靴とれないから、どいて」
「……あ、ごめん」
私は慌てて立ち上がり、彼女が靴箱を開けられるように二歩ほど下がった。
「ったく、相変わらずぼーっとしてるんだから」
吉岡さんはため息をつきながら首を傾げる。
つやつやの髪がさらりと揺れた。
彼女が靴を履き替えたあと、私はもう一度しゃがんで靴箱のふたを開ける。
――やっぱり、見間違いじゃない。
手紙が入っている。
どうしよう、触ってもいいかな……と戸惑っていると、すぐ横に吉岡さんが座り込んできた。
「なに、なにか入ってんの?」
「あ……」
「うわっ、手紙じゃん! もしかして、ラブレター?」
彼女はためらいもなく封筒をつまんで靴箱から取り出した。