「そっか…心配かけちゃったんだ」

悪いことをしたな、と小さく呟く顔は、少し反省しているようだった。

「渡辺さんに頼りたくないんだよ」

「どうして?」

「うーーん、なんだろう。男の意地? なんかあの人、おれらと大して年かわんないのに、大人感だしててむかつくから」

その言葉に驚いた。颯太くんがそんな風に思っていたなんて。

「えー、やさしいよ」

「知ってるよ。いつも理緒の面倒見てるもんな」

「面倒って……」

颯太くんは少しすねたような表情で続けた。

「なんか呼び方も、いつのまにか『理緒ちゃん』とか言ってな。最初は『宮下さん』だったのに」

「自分なんて、最初っから呼び捨て……」

そう反論してみても、颯太くんは自分に都合の悪いことはさらりとスルーしてしまう。

「まあ、そういうもろもろがなんかむかつくわけ」

え? どういうこと? 

渡辺さんがわたしを呼び捨てにすることがむかつくの?
どうして?

わたしはどういう意味かわからなくて、じっと颯太くんを見てしまった。

「それに別に相談するほどのことじゃないんだよな。俺の問題だからさ」

それまで明るかった颯太くんの声のトーンが少し変わった気がした。

「そうなの?」

「なんかさ、きりないじゃん。準備とか練習とか。やろうと思えばいくらでもやることあんだけど、時間も限られてるし、みんな応援団以外にも部活とか塾とかあるし」

わたしは黙って聞いていた。颯太くんがぜんぶ吐き出してしまえればいいと思った。

「でも、応援団のせいで負けたらどうしようって不安にもなるわけ。ほら、応援合戦のときの点数ってけっこうでかいじゃん。応援団が足ひっぱって、総合でびりだったりしたら、ほんとやべーなって」

颯太くんは串に刺したたこ焼きのことも忘れてしまったかのように、真剣な顔つきで話していた。