「言わないっていうか……、迷惑かけたら悪いかなって」

「迷惑かけられてるのは理緒ちゃんなのに」

「……部活もやってないし、時間あるんで。わたしなんて、できることこれくらいだし」

運動が苦手なわたしが、本番当日の競技で活躍できるはずもないし、えれなたちみたいにチア部で花を添えることもできない。どうせ、当日休んでも誰も困らないんだから、衣装係で貢献できたらそれはそれで高校時代のいい思い出になるんだろう。

「がんばり屋さんなのは理緒ちゃんのいいところだけど」

渡辺さんは言った。

「自分の思ってることをちゃんと人に伝えるってことも大事だよ」

「はい……」

渡辺さんがわたしのことを思って言ってくれてるのがわかるから、とりあえずはうなずいたけれど……。
でも、ほんとはそんなことできないってわかってた。

わたしがひどい仕上がりの仮縫いを見て、怒ったり、注意したりすることに意味があるのかなと思ってしまう。

練習で忙しいチア部の子に、また持ち帰らせる? 

そんなことをしたら、わたしはあてつけがましい、嫌な子だと思われるだけ。

とりあえずわたしがやり直しはするけれど、注意だけする?

でも、それをやって誰が得をするんだろう。そんなことをして、理解しあうことにつながるんだろうか。自分も相手も嫌な気持ちになって終わるだけだ。

だったら、何も言わずに自分でやり直すのがベストじゃないかな。

「友達なんだし、言いたいこと言わないと。そうやって、お互い理解していくんじゃないかな」

渡辺さんはそんな風にも言った。