「やべっ」

「5時間目英語だ!」

「いそげ、いそげ」

わたしたちはあわてて屋上の出口に向かった。

「あー、おれ、課題やってねー」

「言ってくれれば見せてあげたのに!」

「しまったー」

しゃべりながらも、わたしたちは必死で駈けた。
颯太くんが一段抜かしで駆け下りていくから、あっという間にわたしは置いていかれてしまう。

「ずるい!」

と思わず叫ぶと、颯太くんが振り向いて笑った。

「理緒! いそげ!」

その言葉に、駆け下りるスピードをあげたら勢いがつきすぎて、踊り場で立ち止まっていてくれた颯太くんに突撃するかのようにぶつかってしまった。ひょろりとしている颯太くんだけど、そこはやっぱり男の子で、しっかりわたしを受け止めてくれた。

「あぶねー」

「ごめん、大丈夫?」

 思わず顔を見合わせて笑ってしまう。

 一緒に笑いながら、わたしはそれまで男の子に感じたことのない、親愛の情みたいなものを颯太くんに感じていた。ひとつの目標を達成するために、一緒に闘う同士のような。秘密任務を遂行するために、策を練る共犯者のような。――そう、あくまでも恋愛とは違う、仲間意識のようなもの。

教室に入っていく先生の姿が見えて、わたしたちはあわてて教室に向かった。

颯太くんと一緒に走りながら、さっき撮った写真のことを思い出していた。

これできまりだ。
これでもう大丈夫。絶対にいいTシャツができる。

そんな確信が持てたことで、わたしはほっとしていた。
その日、少し迷ったけれど、インスタグラムには青い空を突き刺すようにのびる颯太くんの手の写真をアップした。


『最後まで一緒に走りたい。少しでも力になれますように』