「……はい。すみません」

「そっか」

渡辺さんからしたら、わけのわからない行動だったと思うけど、怒った様子はなかったので、わたしはほっとした。

「ちょっと、いろいろあって」

「いろいろ……ね」

渡辺さんは意味ありげににやりと笑った。

大人の渡辺さんは、すべてお見通しなのかもしれない。

えれなと颯太くんがふたりで帰ることになるといい。

さっきのえれなの顔は、あきらかにやきもちをやく顔だった。やっぱりえれなは颯太くんのことを好きなんだ。

颯太くんだってえれなのことが好きに決まってる。わたしなんかがいたらお邪魔でしかない。

「なんか…もしかして、三角関係?」

「え? 何言ってるんですか。そんなわけあるはずないじゃないですか。えれなと颯太くん、いまはいろいろ忙しいからあれだけど、お互い好き同士なんですよ」

「ふーん、そうなの? そうなんだ」

 渡辺さんは笑った。

「じゃあ、僕は理緒ちゃんとデートしようかな」

「え?」

「時間大丈夫? 疲れたでしょ、ちょっとお茶して帰ろう」

「あ…、えっと……」

渡辺さんからの突然の申し出に、わたしはドキドキして、挙動不審な動きをしてしまう。みんなの憧れの渡辺さんとふたりきりでお茶するチャンスなんて、もうないかもしれない。
でも、と思った。

さっき颯太くんがくれたスイカジュースの味が、まだ口の中に残ってる。
うれしい、うれしい幸せな味。