「わー、すごい! ありがとうございます」

「このミシン癖があってさ、俺の代のときも衣装係が苦戦してたんだけど、やってるうちに下糸と上糸のベストバランス見つけたんだよ」

「えー! そんなのあるんですか、教えてください」

わたしたちの様子を見ていたえれなたちから「さっすがー」「すごーい」と感嘆の声があがった。

「いいからいいから、みんなも作業にもどろう。で、もうひとりくらいミシン係やろうよ。僕が教えるから」
その言葉に、渡辺さんに憧れてるって噂の子がひとり手をあげた。渡辺さんがミシンをセッティングしてあげて、説明してくれる。渡辺さんの近くにいることができて、その子は嬉しそうだった。

「じゃあわたしたちは布をどんどん切っていくからね」

えれなも残った女子達と一緒に作業に戻った。

わたしは少しほっとした。正直、ミシン係がわたしだけだと、大して作業ははかどらないと思っていたから。
多分、渡辺さんはわたしのそんな思いをすぐ察してくれたんだと思う。わたしが言えないことを言ってくれて、みんなをまとめてくれた。ほんとにありがたい。

つい渡辺さんを見つめてたら、その視線を感じたのか、渡辺さんがこちらを見た。あわてて会釈すると、にっこり笑ってくれた。どんな顔をしていいかわからず、あわててミシンのほうに向き直って作業を再開した。