「好きなほうどうぞ」
渡辺さんが優しく言ってくれたので、何も選ばないわけにはいかなくて、ミルクティーを手に取って「ありがとうございます」と頭をさげた。
「どうした? なんか問題発生?」
下糸がほつれてぼろぼろになっている布や、内蓋があいているのを見て何か察したのだろう、渡辺さんが聞いてきた。
「なんか、ちょっと下糸がおかしくて……」
「ちょっと見せて」と言うので、わたしは席を渡辺さんにゆずった。
渡辺さんはミシンの前に座ると内蓋をあけて、ボビンをセットし直すと、いくつかダイヤルを調整した。
「これでやってみて」
あっさり言われて、半信半疑で新しい布に刺繍をしてみると、快調にミシンは動き出した。目もそろって、さっきよりきれいだと思えるほどの刺繍が出来上がって行く。