「……」

わたしはだまって内蓋をあけるとボビンをチェックした。上糸と下糸の強さのバランスがとれていないとこういうことがおきるのはわかってる。でもその調整のやり方が…、家庭科の先生に聞きに行こうかと思ったときだった。

「おつかれさま。大したものじゃないけど、差し入れ」

渡辺さんが来て、コンビニの袋に入ったジュースをかかげてみせてくれた。みんながわっと集まる。応援団の練習を見にきてくれている渡辺さんの存在は、女子達にも知れ渡っていた。高校時代は水泳部の部長だった渡辺さんは、肩幅があっていつもボタンダウンのシャツをすてきに着こなしてる。3歳しか違わないのに、在校生の男の子たちより圧倒的に大人っぽく見えた。

しかも、意外とおっとりしていて優しい口調なので、話しやすい。女子の中では渡辺さんに憧れて、同じ大学に行きたい! なんて言ってる子もいるくらいだ。

みんながそれぞれ好きなジュースを選んでいく。わたしはミシンが気になって作業を続けていたので、あとでもらえばいいやと思っていたら、わざわざ渡辺さんが袋を持ってきてくれた。そこにはもうカフェオレやミルクティーしか残っていなかった。わたしはカフェインの入った飲み物が苦手だ。