スマホを捨ててしまったことをお母さんには言えなかった。

言わない訳にはいかないだろうけど、もうインスタグラムもやらないし、連絡をとりあう友人もいないし、いますぐ手元になくてもなにも問題ない。

どうして捨てたのか、ほんとうのことを説明するのは大変すぎたし、嘘をつくのもいやだった。

せめてわたし自身の気持ちが落ち着くまでは、何も言わずにいようと思っていた。

でも、その日の夜、一階からおしゃべりが聞こえてきた。テレビの音ではない、にぎやかな聞き覚えのある笑い声……。

わたしがはっとして階段を駆け下りると、ダイニングのいすに座ってえれながお母さんと話をしていた。
「えれな……」

えれなはわたしをちらりと見て、またお母さんと話し始めた。

「ほんとどうする気だったんだろう、信じられない」

「でも、理緒がなにも話さないのは、いつものことだから、おばさん慣れちゃったわ」

「だって、スマホなかったら、大変じゃん! わたしだったら、大騒ぎするけどな」

 わたしはテーブルを見て驚いた。

昼間わたしが用水路に捨てたスマホが、保存用ビニール袋にいれられて置いてあったのだ。

「とりあえず、電池パックとSDカードは抜いて別にしておいたから。これ持って行けば、新しいのと取り替えてもらえるよ」