その日の夜、颯太くんから電話がかかってきた。

『理緒の家の前にいるから、ちょっとでてきてほしい』

電話口でそう言われたけれど、わたしはだまって電話を切った。

レースのカーテン越しに窓の外を見ると、颯太くんが立っているのが見えた。

十月に入って、夜はぐっと気温がさがるようになっていた。背中を丸めて立っている颯太くんを見てたら、その寒さが伝わってきた。

多分、お姉さんからことのいきさつを聞いたんだろう。

でも、それで颯太くんはいったい何をわたしに言いにきたんだろう。

わたしはいま颯太くんに会って、何を言えばいいんだろう。

颯太くんに見られているなんてこれっぽっちも想像していなかったのに、ぜんぶ見られていたなんて、こんな恥ずかしい間抜けな話ってあるかな。

部屋のなかから颯太くんを見ながらぼんやりとそう考えていた。

と、そのとき、颯太くんがわたしがいる窓を見上げた。

一瞬目があったけれど、わたしは急いでカーテンを閉めた。

颯太くん、わたしが見ていたことに気づいたよね。

颯太くんがいることをわかっているのに、現れないことをどう思うだろう。

もう嫌われてしまうかな。

でも、会えない。どんな顔をして会えばいいの?

正解がわからない。苦しすぎる。

こんなことが続くのなら、嫌われてしまったほうがましだ。