渡辺さんと別れて、ひとり家まで歩いて帰った。

うなだれてとぼとぼと歩きながら、さっきの渡辺さんの言葉を何度も何度も思い返していた。

冷静に考えてみれば、渡辺さんの言う通りだった。

なんで今まで思いつかなかったんだろうと思うくらい、正論だった。

アカウントそのものを削除してしまえば、素材がなくなって、写真集の出版は物理的にできなくなる。

それくらい写真集を出したくないのだ、と横澤さんにもわたしの思いが伝わるだろう。

えれなのこともそうだ。すべて削除してしまえば、それくらい反省していると、えれなのことを傷つけたことを後悔しているとわかってもらえるかもしれない。

わたしは立ち止まり、インスタグラムを開いた。
アカウントを削除するための画面をだし、必要事項を記入していく。
最後のステップになる、わたしは『アカウントを削除する』というボタンをじっと見つめた。
このボタンをタップすれば、すべて消える。

すべてなかったことにしまえば、きっと楽になれる。

はやく、タップしてしまえ。

自分にそう言い聞かせたけど、わたしはどうしてもそれ以上操作することはできなかった。

あのアカウントにはわたしの一年間がぎゅっとつまってる。

悩んだり、苦しかったりしながらも、わたしなりにひたむきに、一生懸命やってきた。

あそこに嘘はないから、わたしが何を幸せだと思って、何につらいと感じたのか、どんなときがさみしくて、どんなときに救われたのか、ささやかだけれど、わたしの日々の記録が積み重ねられてきている。