「いま、この時点でそんなに苦しんでる理緒ちゃんをみてたら、将来の夢ってわけでもないし、リスクをおかしてまで写真集を出す意味ってあるのかなって気もしてしまう」

渡辺さんがおだやかな声で、ていねいにゆっくり話してくれるから、わたしは心が落ち着いていくのを感じた。  

「すべてを元に戻すことはできないかもしれないけど、でもこれ以上傷を広げないっていう選択ならできるんじゃないかな」

そう言われて、わたしは少しほっとしていた。

そうだ。
何も夢への第一歩というわけじゃないんだ。
突然ふってわいた非現実的なことに、少しうかれて、飛び込もうと思ってしまっただけ。

渡辺さんがひとつひとつときほぐしてくれたおかげで、わたしの迷いや悩みはだいぶ解消された気がした。

やっぱりちゃんと断ろう。

「わたし、編集さんにちゃんと謝って、お断りします。電話一本ですませようとしたわたしも、いけなかったんです」

「そうだね」

少し考えて渡辺さんは言った。

「ねえ、理緒ちゃん。いい考えがある」

「なんですか」

「そのアカウントを削除しちゃえばいいんじゃないかな」

わたしは渡辺さんの口から発せられた言葉の意味が理解できなくて、聞き返した。

「え?」

「そのアカウント自体を全部削除して、なかったことにしちゃえば、当然写真も消えちゃうし、編集さんももうどうしようもないんじゃないかな。ツイッターなんかだとできるんだけど…、インスタもできるよね」

渡辺さんの言葉を理解したとたん、頭の中が真っ白になった気がした。