渡辺さんが連れていってくれたのはモールの最上階にある、レストランフロアのイタリアンレストランだった。カフェやフードコートより、人が少なく落ち着いた雰囲気で、渡辺さんの配慮を感じた。

渡辺さんはコーヒーを頼み、わたしはピンクグレープフルーツジュースを頼んだ。渡辺さんは甘いものでも、何か食べたらと誘ってくれたけれど、食欲のないわたしはていねいにおことわりした。

「なんか、理緒ちゃん、ちょっとやせたよね」

その言い方が優しくて、真剣で、渡辺さんが本当にわたしのことを心配してくれているのがわかった。

わたしもあらためて久しぶりに会う渡辺さんを見た。

やっぱりクラスの男子たちと比べると、渡辺さんはずっとずっと大人びてる。
応援団の指導に来てくれていたときは、よくボタンダウンのシャツを着ていて、袖をまくって指示をだす姿がすてきだって女子達の間で話題になっていたことを思い出した。

秋になったいまは、Vネックの黒いニットをさらりと着こなしていて、黒ぶちの眼鏡とのコーディネートがシックだった。

あの頃だったら、渡辺さんと向かい合って座ってお茶を飲んだりしたら、ドキドキしてうかれていただろうなと思う。
でも、いまのわたしは心がささくれだっていて、せっかくふたりでいるのに、ときめきも緊張もなにも感じなかった。

黙って、ジュースを飲む私を見ていた渡辺さんが、心配そうに口をひらいた。