「理緒!」

そのとき、明るくわたしを呼ぶ声がした。

「なにしてんの! こっち、こっち!」

数人の女子に囲まれたえれなが、教室の後ろのほうから無邪気な笑顔で呼びかけてくれていた。

わたしはそれまで感じていた恐怖が一気に消え、身体中に安心感が広がったのを感じた。わたしは一瞬でも動揺したことなどおくびにもださず、ゆっくりとえれなのもとに向かった。

視線のさきにはえれなの笑顔があった。その笑顔を見ながら、わたしは悟ったのだ。えれながわたしを親友だと思ってくれていれば、ひとりぼっちになることはないのだ、と。

えれなが当然のように、自分の隣のいすに座るように手招きし、自由行動でどこを回りたいかたずねはじめた。みんながそれぞれ好き勝手なことをいうのを笑顔で聞きながら、わたしは立場が逆転したことを感じた。幼稚園のとき、わたしの手をつかんでほっとしたえれな。いまはわたしがえれなの手を離せない。
……そこまで考えて、わたしは小さいため息をついた。

なんでだろう、最近考え方がすこし卑屈になってる自分がいる。

考えすぎちゃいけない。

いま、うまくやってるんだから、それで十分でしょう?

もう一度つきかけた小さいため息をのみこんで、気を取り直そうと顔をあげたとき、渡り廊下の窓に桜の花びらが一枚ぺたりとはりついていることに気づいた。

窓ふきなんて毎日してるわけじゃないから、少しほこりで曇っている薄汚れた窓に張り付いているひとひらのピンクがけなげに思えて、わたしは制服のポケットからスマホを取り出した。