颯太くんがついてくるのがわかったけど、わたしは振り向かないで人ごみをぬうようにして小走りに駈けた。
ひとりになりたかった。

駈けながらいろんなことを思い出していた。

出会った日、横を向いたらあまりに近くに颯太くんがいてびっくりしたこと。

疲れていた日にくれたすいかジュース。

体育祭で応援団が一位をとったときに、わたしだけにくれたガッツポーズ。

今日だって、颯太くんが買ってくれたあんず飴も、好みを言い当ててくれた水風船も、どれもがわたしの心を震わせた。

どれもが思い出すたびに、胸がきゅっと痛くなることばかりで、これで好きにならないほうがおかしいでしょって、そう思った。


こんなに好きにさせておいて、他に好きな子がいるなんて。
颯太くんは優しくなんかない。残酷な人だ。

大通りに出たときに颯太くんに腕をつかまれた。

「離して!」

 思わず大きな声が出て、颯太くんがびくっとした。

「どうしたんだよ、理緒」

「…………」

わたしは荒い息を吐きながら、唇をかみしめた。

「急にいなくなるなよ、びっくりするだろ」

「……」

心配そうな顔で颯太くんがわたしをのぞきこんでくる。そんな目でみないで。わたしは顔をそむけた。