わたしの背後にはちょうど自動販売機があった。まるで壁どんをするかのように、その自動販売機に左手をつき、右腕でわたしを抱えるようにした。

わたしの盾になろうとしているのか、覆い被さるようにして立っているから、あまりに近すぎて、颯太くんの心臓の音まで聞こえてきそうなほどだった。もちろんわたしはドキドキしすぎて、頭がかーっとなって、呼吸をするのも苦しい。颯太くんの顔が近くて、息づかいが伝わってきて、私のほうはもう息をとめてしまっていた。心臓の鼓動が強く早く大きく身体中に響いて、なんだか爆発してしまいそうな気がした。

予想もしていなかった状況に焦ってはいたけれど、でもものすごく幸せだとも思った。颯太くんはこの状況が危険だから、わたしを守らなきゃと思って、こうしてくれてる。  

わたしのことを考えてそうしてくれた気持ちがうれしい。

お神輿が通り過ぎ、人ごみがだいぶばらけるまで、颯太くんはずっとそうしてくれていた。

「大丈夫? やばかったな、まじで。事故おきるよ、こんなん」

颯太くんは離れると、大丈夫? とたずねるかのようにわたしの顔をのぞきこんだ。

わたしは多分真っ赤になっていたと思う。
そんなわたしを見て、颯太くんがあわてて言った。

「あ、ごめん。別にへんな意味があってやったわけじゃなくて、危ないと思ったからつい……」

途端にそれまで心を満たしていた幸福感があっという間にしぼんでいくのを感じた。

颯太くん、言い訳してる。

好きでもない子に誤解されたら困る、とか思ってる?

またわたしだけ勝手に舞い上がって幸せを感じてしまったと思うと、自分がみじめで、いたたまれない気持ちでいっぱいになった。

あんなにドキドキした自分がなんだか恥ずかしくて、もうこの場から消えてしまいたい。

「帰る」

「え?」

私は颯太くんの腕をふりほどくようにして、歩きだした。