「ダメだよ。帰る」

そう言い張るわたしの手首を颯太くんがつかんだ。

「なんでそんなに意地はるの」

「意地なんて」

「もしかして、俺のことが好きなの?」

びっくりして、思わず足がとまった。見上げて見た颯太くんは、いたずらっぽい顔をしていてからかわれたのだとすぐにわかった。

「もう!」

思わず颯太くんの腕を振り払った。そんなわたしを颯太くんが面白そうにのぞきこんでくる。なんだか颯太くんが憎たらしくなって、つい強い言葉がでた。

「好きなわけないでしょ。どんだけ自信家なのよ」

「ひっどー。でも、それならいいじゃん。なんとも思ってないなら、別に。ここまできたんだし、ちょっとくらいのぞいていこうぜ」

「……」

なおもそっぽを向いているわたしに、颯太くんは余裕の顔で言った。

「じゃあさ」

「なに」

「あんず飴買ってやる」

「あっ……」

思わず頬がゆるんでしまって、あわてて顔を引き締めた。
あんず飴、お祭りの屋台の食べ物のなかで、わたしが一番大好きなもの。思い出したら、口の中があの水飴の感触とあまずっぱい杏の味でいっぱいになって、張りつめていた気持ちが一気にゆるんだ。

わたしの変化を察した颯太くんが笑い出した。一瞬でも食べ物につられかけた自分が恥ずかしくて、私も思わず笑ってしまった。

「さあ、行こう」

颯太くんがまたわたしの手首をつかんで歩きだした。わたしはひっぱられるようにして、颯太くんのあとをついていった。