自分の居場所に戻れてよかったね、なんとなくそんなことを思い、自習スペースに戻った。
いまはここがわたしのいるべき場所だなと、自嘲気味に思いながら、再び宿題にとりかかる。

苦手な数学の宿題をやっていたら、少しのあいだ颯太くんのこともえれなのことも忘れることができた。教科書やノートを睨みながら、何問か解くことができて、ほっとひと息つき、顔をあげて、わたしは自分の目をうたがった。

向かいの席で颯太くんがつまらなそうにペンを回していたのだ。


「なんで?」

驚いて思いのほか大きな声を出してしまい、周りの人たちがじろっとこっちを見た。

はっとして小さくなったわたしを見て、颯太くんがぷっと吹き出した。そして、立ち上がるとわたしの席のそばまで歩いてきて、しゃがみこんだ。

「さっきからずっといたのに、全然気づかないのな」

いすに座っているわたしは、颯太くんを見下ろす形になった。

周囲の人を気にして小声で話すから、どうしても距離が近づいてしまう。いつもとは逆でわたしを見上げてくる颯太くんはなんだか……子犬みたいで、かわいかった。

「だって、まさかいると思わないから」

「びっくりした?」

「するよ。声かけてよ」

すると、颯太くんが突然手を合わせた。

「理緒ー、理緒ー、あのさー」

「なに」

「お願い。英語、うつさせて」

ポーズのわりには、あまりに悪びれていない無邪気な顔で言うから、わたしは思わず笑ってしまう。