「ほんとお前、姫体質だな。理緒の弁当、奪うなよー」

そう言いながら、紺野颯太がえれなに唐揚げパンを差し出した。

「え? なにこれ。どうしたの?」

「昼飯用に買ったんだよ。俺が行ったときはまだあったから」

「えーー、ずるい」

えれなの言葉に、紺野颯太はあきれた顔をした。

「ずるくないだろ。それやるから食べろ。理緒だって、ちゃんと食べなきゃお腹すくだろ」

その言葉にわたしは小さい声で「わたしは別に大丈夫だけど……」とつぶやいた。

えれながばつが悪そうにたずねた。

「颯太は? なに食べるの?」

「べつの買ってくるよ。俺はそこまで唐揚げパンに執着ないから」

と、そのやり取りを見ていたみんながひゅーひゅーとはやしたてた。

「颯太、やさしいーー!」

「じつはえれなのために、買っといてあげたんじゃないの?」

わたしもそう思った。そして、すべてが腑におちた。やっぱり紺野颯太もえれなが好きなんだ。だから、えれなに警戒されないように、わざとわたしがいるときに声をかけてくるんだ。

紺野颯太はみんなに冷やかされてもたいして動じなかった。「なに言ってんだか」という顔で、教室を出て行った。

「よかったね」

そう言うと、えれなはえへへと笑った。
「理緒ママの唐揚げも食べたかったんだけどね」なんて、言い訳のように言いながら、うれしそうに唐揚げパンを食べはじめた。