なんの心構えもしていなかったわたしは、驚いて固まってしまった。颯太くんの行動を見て、周りにいた生徒たちの視線がわたしに集中する。颯太くんは相変わらずわたしに向かって、ガッツポーズを振り回す。と、誰かが言った。

「衣装係!」

「おつかれさま!」

「大変だったよね! ありがと!」

「すごくよかったよ!」

そして、あたたかな拍手がわいた。

一瞬、何がおきたのかわからなかったけど、みんなが笑顔で拍手してくれるから「ありがとう」と小さな声で言った。

ふと見ると、もう颯太くんは応援団全員と握手して回っている。
その様子を見て、また涙があふれてきそうなのをこらえながら、思った。

颯太くん、ちゃんとわたしのことを気遣ってくれた……。

わたしのこと、忘れないでいてくれた……。

心のなかは感謝と感動でいっぱいだった。こんな気持ちを味わったのはうまれて初めてだった。これから先、大変なことがあったとしても、この場面を思い出せば生きていけるんじゃないかとすら思えた。

そして、こんな感情をわたしに与えてくれた人、一瞬でもわたしを最高に輝かせてくれた人のことを、いつまでも愛おしく思い出すだろうとそう思った。