「やばい、やっぱ緊張する」

そういって、えれなはわたしに抱きついてきた。

「大丈夫、いっぱい練習してきたじゃん」

わたしはえれなの背中をとんとんと叩いた。

「さっき、颯太に会ったんだけど、なんか珍しく真剣な顔してた」

「そっか」

「話しかけても、うんうんって上の空なの。颯太でもあんなになるんだなって意外」

えれなの言葉に、真剣に話し合いをしていた今朝の颯太くんの表情を思い出した。

「いまうちの軍、二位だっけ。応援合戦で逆転できるといいなあ」

そうえれなが呟いた。多分、颯太くんも同じことを考えてる。だからきっと心の中は不安でいっぱいなんだろうなと思った。

応援合戦は四つの軍がひとつずつそれぞれが用意した演舞を行う。採点するのは、校長先生をはじめとした教師陣、そして来賓から選ばれた数名の大人たちだ。一位は100点、二位は80点、三位は70点、四位は60点になる。

一位と四位の差は40点もあるから、この順位の行方が総合得点を左右することもままある。
だから、応援合戦は応援団が必死になるし、それを応援する生徒たちもエキサイトする。体育祭一番の盛り上がりが生まれるのは、そのせいだ。

「午後の部開始まで、あと10分です。みなさん、グランドに戻りましょう。午後は応援合戦からはじまります。各軍、がんばってください」

放送係のアナウンスが流れた。えれなの顔にも緊張がはしる。