遠子は小さな声でぽつぽつと話しているけれど、確信に満ちていた。たとえ香奈に強く言われたとしても、決して自分の考えを曲げるつもりはなさそうだった。

遠子はそういう子だ。大人しいし、控え目で物静かだけれど、ちゃんと自分の考えを持っていて、誰かに合わせて意見を変えたりしない。そして、言うべき時にはちゃんと口にする。

外見のか弱さとは反対に、芯はとても強いのだ。周りの顔色を窺って、すぐに意見を合わせてしまうわたしとは、全然違う。

だから彼方くんは、遠子のことを選んだんだと思う。ちゃんと『自分』を持っている遠子は、周りに合わせてばかりわたしよりも、ずっと魅力的な女の子だから。だからわたしは振られた。


「……香奈、しょうがないよ」

気づいたらそう言っていた。香奈が「えっ?」とこちらを振り向く。

「やっぱり席は代えられないから、諦めよう」

と告げると、彼女は渋々というように前に向き直った。

「まあ、遥がそう言うんなら、今回は我慢するか」

香奈が考えを改めてくれたことにほっとしていると、視線を感じた。目を向けると、遠子が申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。

にこりと笑いかけると、彼女は唇だけで「ごめん、ありがと」と伝えてきた。わたしはこくりと頷いてもう一度笑った。

でも、心の中では言葉にならない思いが渦巻いていて、貼りつけた笑顔が不自然なものじゃないか、不安だった。