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昼休み、教科係の仕事としてクラス全員分のプリントを回収して、職員室へと提出しに行く途中のことだった。
階段を上ろうとしたとき、かすかに人の気配がして、わたしは何気なく視線を向けた。階段の下に隠れるようにして立つ背中を見た瞬間、どきっとする。遠子の後ろ姿だった。
彼女は小さな身体をさらに縮めるようにして、スマホを耳に当てている。思わず耳を澄ますと、話す声が聞こえてきた。
「……うん、今日は部活休みだから、図書室で時間つぶしとく。……え? いいよ、待つのは苦手じゃないし、テスト勉強しとくから。……うん、大丈夫、気にしないで。……ありがと。彼方くんも部活がんばってね」
電話の相手が彼だと分かった瞬間、かっと胸の奥が熱くなった。
遠子が彼氏と電話をするためにこんなふうに隠れるようにしないといけないのは、わたしのせいだ。それは分かっているし、申し訳ないとは思うけれど、その一方で、苛立ちを覚えずにはいられなかった。
何も校内で電話しなくてもいいのに、ラインでいいのに、まるでわたしへの当て付けみたい。そんな身勝手な被害妄想にとらわれる。黒いどろどろとしたものが心の中で渦巻いて、うまく息ができない。
遠子から目を背けて、唇を噛みながら階段を足早にのぼる。自分の中の暗い感情を必死に圧し殺そうとしていたとき、そういえば彼方くんの消しゴムを見つけたのは遠子だったな、と唐突に思い出した。
あの頃は、まだ遠子と彼方くんは付き合っていなくて、わたしは彼方くんのことが好きだと仲間内で公言していた。彼女はわたしに気を使って、彼に対する気持ちを隠し、わたしの恋を応援すると言ってくれた。そして、彼方くんが落とした消しゴムを見つけると、あれをきっかけにして話しかければいいと言って、わたしに譲ってくれたのだ。
自分の恋心を隠してまでわたしに協力してくれた遠子。彼女の優しさに対して、わたしの腹黒さはどうだろう。本当に醜い。
そして結局は、彼方くんに選ばれたのはわたしではなくて遠子のほうだった。
昼休み、教科係の仕事としてクラス全員分のプリントを回収して、職員室へと提出しに行く途中のことだった。
階段を上ろうとしたとき、かすかに人の気配がして、わたしは何気なく視線を向けた。階段の下に隠れるようにして立つ背中を見た瞬間、どきっとする。遠子の後ろ姿だった。
彼女は小さな身体をさらに縮めるようにして、スマホを耳に当てている。思わず耳を澄ますと、話す声が聞こえてきた。
「……うん、今日は部活休みだから、図書室で時間つぶしとく。……え? いいよ、待つのは苦手じゃないし、テスト勉強しとくから。……うん、大丈夫、気にしないで。……ありがと。彼方くんも部活がんばってね」
電話の相手が彼だと分かった瞬間、かっと胸の奥が熱くなった。
遠子が彼氏と電話をするためにこんなふうに隠れるようにしないといけないのは、わたしのせいだ。それは分かっているし、申し訳ないとは思うけれど、その一方で、苛立ちを覚えずにはいられなかった。
何も校内で電話しなくてもいいのに、ラインでいいのに、まるでわたしへの当て付けみたい。そんな身勝手な被害妄想にとらわれる。黒いどろどろとしたものが心の中で渦巻いて、うまく息ができない。
遠子から目を背けて、唇を噛みながら階段を足早にのぼる。自分の中の暗い感情を必死に圧し殺そうとしていたとき、そういえば彼方くんの消しゴムを見つけたのは遠子だったな、と唐突に思い出した。
あの頃は、まだ遠子と彼方くんは付き合っていなくて、わたしは彼方くんのことが好きだと仲間内で公言していた。彼女はわたしに気を使って、彼に対する気持ちを隠し、わたしの恋を応援すると言ってくれた。そして、彼方くんが落とした消しゴムを見つけると、あれをきっかけにして話しかければいいと言って、わたしに譲ってくれたのだ。
自分の恋心を隠してまでわたしに協力してくれた遠子。彼女の優しさに対して、わたしの腹黒さはどうだろう。本当に醜い。
そして結局は、彼方くんに選ばれたのはわたしではなくて遠子のほうだった。