「なんの動画見てたの?」
「これこれ。最近流行ってる芸人のやつ」

香奈がそう言いながらスマホの画面をわたしに向けてくれる。そこに映っていたのは、見たこともない芸人だった。

「あー、ごめん、知らない……」
「えっ、うそ、知らないの?」
「えー、最近めっちゃテレビ出てるのに」

二人が目を丸くしてこちらを見る。わたしは慌てて笑みを浮かべた。

「あはは、最近テレビあんまり見れてなくて」

「マジで? やばいよ、時代に遅れちゃうよ」

私は「だよねー」と大きく頷く。

「ちゃんとチェックしとかなきゃね。教えてくれてありがと」

「そうだよ。ほら見て、これとかめっちゃウケない?」

「ほんとだ、面白いね」

そう答えたものの、動画の芸人の芸風はお世辞にも上品とは言えないもので、個人的にはあまり好きになれそうになかった。

でも、流行っているというなら知っておかなければいけないし、新しい動画が上がったら見ておかなければ話題から取り残されてしまう。

「あ、ねえねえ、あたしなんか喉渇いちゃった。ジュース買いに行こー」

香奈の言葉に、わたしと菜々美は頷いた。別に喉は渇いていなかったけれど、これは水分補給というより人付き合いだから、自分だけ行かないなんて言えないし、言ってはいけない。