それに、わたし自身も、今までのように遠子に接することができそうになくて、なんとなく一緒には行動しづらいというのもあった。いちばん大切な友達だと思っていたし、今でも思っているのに、彼女に対してそんなことを思ってしまう自分の心の醜さに呆れる。

鬱々と考えながら遠子を見ていたわたしの視線に気づいたのか、香奈たちも彼女のほうへ目を向けた。遠子はまだ窓の外を見ていた。

「うわ、なにあれ、うざっ」

香奈が顔を歪めて声を上げた。すると、聞こえない距離のはずなのに、遠子がぱっとこちらを振り向いた。何かを察知したのかもしれない。

「遥の前で彼方くんのこと熱く見つめるとか、ほんっと嫌らしいよね」

香奈が菜々美に言うと、菜々美も「わざとじゃない?」と肩をすくめた。

遠子は顔を赤くして目を逸らし、唇をかすかに動かす。『ごめんなさい』と言っているように見えた。

「ね、遥もそう思うでしょ?」

同意を求められて、わたしは遠子から視線を外し、曖昧に返事を濁した。

「まあ……でも……付き合ってるなら当然かな、と思うけど……」

わたしの答えに、香奈がため息をついて「行こ」とわたしの腕を引いた。振り向くと、遠子が泣きそうな顔でわたしを見て、少し頭を下げた気がした。

教室から廊下へと出ながら、香奈が眉間にしわを寄せて言う。

「もう、遥ってば、ほんと人がいいんだから! あんなの怒って当然じゃん」

「うーん……」

うまく答えられなくて、また曖昧にごまかした。

わたしは人がいいわけじゃなくて、そう見られたいだけだ。本当はむかついたり苛立ったりしていても、それを顔に出したり言葉にしたりして、悪口を言っているとか性格が悪いとか思われなくないのだ。

今だって、確かに遠子に対してマイナスな感情を持っているけれど、それを口に出したら負けだと思って、ただこらえているだけ。