こうやって放課後を彼と過ごすようになる前は、空をちゃんと見ることも、雲の形を気にすることも、帰り道に咲く花や野良猫にちゃんと目を向けることもなかった。

これまでと同じ生活を送っているだけなのに、わたしの目は今まで何を見ていたんだろう、とびっくりするくらいに、毎日新しい発見がある。何気ないことを話せる相手が、話したい相手がいるというだけで、こんなにも世界が違って見えるのかと驚いてしまう。

天音と会うようになってから、毎日学校に行って授業を受けているわたしの身体と、空を見たり風を感じたりしているわたしの心は全く別物のように思えてきた。学校のことも家のことも友達のことも忘れて、ただ心だけでふわふわ漂っているような。

しばらく今日の発見について話し合ったあと、ふいに会話が途切れて、わたしはなんとなく思いついた話題を口にした。

「もうすぐ期末テストだねえ」

そう言ってしまってから、学校の話はしないことにしたんだった、と気がついて後悔したけれど、天音は気にするふうもなくこくりと頷いた。

『そろそろ試験勉強始めないとね』

さらさらと書いた天音の表情を見ると、あまりテストを嫌がっている様子はない。勉強が苦手なわたしからしたら、テストが始まるのは憂鬱でしかないけれど、彼はそうでもないらしい。

そういえば天音の着ている制服は、このあたりでは一番の進学校のものだ。確か県内でも三本の指に入るくらい偏差値が高くて、難関国立大学にも毎年たくさんの合格者が出ているはずだ。

そんな高校に通っている彼からしたら、期末テストくらいなんでもないのかもしれない。