「気が向いたときでいいのよ。無理に弾くものじゃないものね。さっきは遥ちゃんの気持ちも考えずにお願いしちゃってごめんなさい、久しぶりに弾くのにいきなり人前で演奏なんて、困っちゃったわよね」

わたしは「いえ」と首を振った。

「そんなことないです。弾いてほしいって言ってもらえたのは嬉しかったんです。でも、あの、自信がなくて……ごめんなさい」

「いいのよ、私こそごめんね。いつか、ずぅっと先でもいいから、もし自信がついたら、ここで弾いてくれると嬉しいわ」

わたしは今度はこくりと頷いた。それから、天音のほうを見る。

「ごめん……なんか勝手に話進めちゃったけど、よかった?」

勢いで話を通してしまったけれど、彼はどうなんだろうか。口を利けないのに、喫茶店で手伝いをするなんて、もしかしたら天音にとっては負担かもしれない。

できる限りわたしが一人でやるつもりだけれど、彼に無断で申し出を受けてしまったのはよくなかった気がする。

窺うように天音の顔を見ると、彼は微笑んでペンを動かした。

『ありがたい話だね。少しでも力になれるように僕もがんばる』

その言葉を見て、ほっとした。と同時に、嬉しさが込み上げてくる。

これからわたしは毎日放課後に天音と会って話をする。そう考えると、わたしの退屈で無意味だった放課後が、なんだかとても素敵なものになるような予感がした。

わたしは天音とあかりさんの顔を見て、「よろしくお願いします」と頭を下げた。