「え?」とわたしは首を傾げる。

「だって、若いお客さんがいると雰囲気が華やいで、お店まで若返ったような感じがするもの。常連さんたちも喜ぶわ。お代は出世払いで結構だから、ぜひ来てくれたら嬉しい」

「ええ~……」

ありがたい申し出ではあったけれど、そんな親切を受け入れてもいいのか、戸惑ってしまう。

答えられずにいると、あかりさんはわたしの迷いを察したのか、こう続けた。

「じゃあ、こうしましょう。夕方はバイトさんがいなくて忙しいと手が回らないことがあるの。だから、二人が注文をとったり飲み物を運んだりしてくれたらとっても助かるわ。それに」

彼女がわたしと天音を見比べて笑う。

「たまにピアノも弾いてくれたら嬉しいわ。誰にも弾いてもらえなくて、あのピアノだってきっと寂しがってるものね」

わたしはどきりとして天音を見た。ピアノの話は、彼にとっては禁句なんじゃないだろうか、と思ったのだ。案の定、どこか複雑そうな顔をしている。

「分かりました」

気がついたら、そう言っていた。

「そのときは、わたしが弾きます。今はまだ、久しぶりできっと下手だから、あれですけど……練習して、上手になったら、いつかきっと」

きっぱりと告げると、あかりさんは少し驚いたようにわたしを見て、それから天音に目を向けた。うつむく彼を見て何かを察したのか、彼女はにっこり笑ってわたしに視線を戻す。