どうして彼とまた会いたいのか、自分でもよく分からない。彼方くんに恋をしているのと同じように彼が好き、というわけではない。

でも、なぜか彼のことが気になって頭から離れない。初めて出会ったときの彼の涙と笑顔、綺麗な歌声と、今は口には出さない声、さっき聞いたピアノの美しい音、家に帰りたくなさそうな様子、そういう彼の全てが、気になってしかたがない。

何より、天音の優しくて柔らかい雰囲気が特別に思えて、他の誰とも違う彼の空気にふれるとなぜだかすごく落ち着いて癒される。

だからなのか分からないけれど、ただ、とにかく、どうしても、これきりにしたくないのだ。

「よかったら、でいいんだけど……できれば、また、あなたと会って話したいから」

天音はしばらく考えるような眼差しをわたしに向けて、それからペンを動かした。

『何を?』

会って何を話したいのか、と訊いているのだ。自分の何を知りたいのか、と問われているような気もした。

「なんでもいいんだけど……」

普通なら、どんな話をするのだろうか。考えながら口を開く。

「そうだな、家のこととか、学校のこととか……」

そう言ってしまってから、わたしはぶんぶんと首を振った。

「そういう話じゃないな」

天音はおかしそうに息をふっと吐き出した。

『普通、高校生同士なら、そういう話をすると思うけど』

「まあ、そっか……でも、そんな話は、家にんまりしたくないし、別に聞きたくもないかな……。そんなことより、もっと……」