『力になれなくてごめん』

その文字を見て、胸が痛くなった。

「なんで謝るの? 天音は悪くないよ。わたしが勝手なこと言っただけなんだから、謝ったりしなくていいよ」

必死に言葉を返したけれど、天音はやっぱり申し訳なさそうな顔をしている。

『遥のお願いなら聞いてあげたいけど、これ以上は弾けそうにない、ごめん』

わたしは思わず瞬きも忘れて彼を見つめる。

わたしのお願いなら聞いてあげたい、なんて、今まで誰かからそんなふうに言ってもらったことは一度もなかった。

「……どうしてそんなこと言ってくれるの? 会ったばっかりのわたしに……」

訊ねると、天音はふっと目を細めて微笑んだ。

『遥の泣き顔は、本当に苦しくて悲しそうだった』

彼の手もとを覗き込んで、そんな言葉を見つけてどきりとする。

初めて会ったあの時、泣き声を聞かれただけではなくて、顔まで見られていたなんて。恥ずかしさに頬が熱くなる。

そんなわたしをちらりと見てから、天音はさらに手を動かして、続けた。

『だから、君が泣かなくてすむなら、僕で力になれることはしてあげたい』

えっ、と声が出そうになった。

まるでドラマにでも出てきそうなセリフだ。でも不思議と、天音が言うとちっともおかしくない。彼の独特の雰囲気のせいだろうか。

『でも、ピアノだけは、ごめん』

わたしは天音をじっと見つめながら首を横に振る。

「いいの。天音は謝る必要ない。それに、ピアノ弾けないくらいでわたし泣かないし」