でも、それはすごくもったいないことをしていたのかもしれない、と天音の言葉で気づかされた。

わたしには好きなものなんてない、熱中できるものなんてない、と思っていたけれど、それは実は、せっかく夢中になれたかもしれないものを、自分でつぶしてしまっていたのかもしれない。

周りの目ばかり気にして、自分で自分に目隠しをして、自分の気持ちを圧し殺してしまっていたせいで。

でも、自分でも呆れてしまうけれど、わたしは人の目が気になって仕方がないのだ。

いつも人からどう見られているか気にして、みっともない自分は見せたくないし、上手くできないことは人前では絶対にやりたくない。

いい子だと思われたくて人の顔色ばかり窺っているし、浮いていると思われないようにみんなと同じように振る舞わなきゃと必死だ。

周りに合わせてばかりで《自分》というものがない、情けなくて格好悪いわたし。

でも、そんな自分から抜け出したいと、思っていないわけではない。

そして、今はそのチャンスだと思った。

「……ねえ、天音」

わたしは顔を上げて、まっすぐに彼を見つめた。

「お願いがあるんだけど」

天音が小さく首を傾げる。なに? と言っているのだと分かる。

わたしは唾を飲み込んで深呼吸をしてから口を開いた。

「……わたしと一緒に、ピアノを弾いてくれない?」

天音の目が大きく見開かれて、吸い込まれそうなほどに透き通った。

「よかったら……。わたしも、また、弾いてみたい」