断ろうと顔を上げたとき、隣のテーブルから声が聞こえてきた。

「へえ、ピアノが弾けるのかい。それはそれは、ぜひ聞かせてもらいたいなあ」

おじいさんは悪気なくにこにこと笑いながらこちらを見ている。

すると他のテーブルにいたお客さんも興味津々といった表情でこちらに視線を送っていているのに気がついてしまった。

どうしよう。この空気の中で、弾けないだなんて言う勇気はわたしにはない。

わたしはいつも、周りの顔色を窺って、周りに合わせてしまう。そんな自分が嫌だけれど、だからといって変えられるわけがなかった。


かさっと紙の鳴る音がして、ちらりと顔を上げると、天音と目が合った。

じいっと窺うようにこちらを見てくる、綺麗な色の瞳。

心の奥底まで見透かされそうな気がして、またうつむく。

それからわたしはぎゅっとこぶしを握り、目を上げてあかりさんを見た。

分かりました、と言おうと口を開く。

――その時だった。