「もちろんですよ」

わたしは彼女に向かって大きく頷く。

「あの頃は小さかったのでよく分かってなくて、当たり前みたいに頂いちゃってましたけど、いつも本当にありがとうございました」

そう言って頭を下げると、あかりさんはカウンターの中で手を動かしながら「いいのよ」と答えてくれた。

「私がしたくてしてたんだから。私の母の時代からやってる古い店だから、年配の常連さんが多いのよね。だから若いお客さんが来てくれるのは新鮮で嬉かったの。他のお客さんたちもみんな喜んでたしね」

「そうですか……ありがとうございます」

もうちょっと待っててね、と続けて言われたので、わたしは頷いて店内を見回した。

記憶していた通り、とても落ち着く雰囲気だ。

古いけれど逆にそれがお洒落に見えるテーブルと使い込まれた椅子、上品なインテリア。

ところどころに飾られた絵と観葉植物、そして壁際に佇む柱時計と、その隣にひっそりと置かれたピアノ。

ふいにあのピアノを何度か弾かせてもらったのを思い出した。

小さい頃わたしはピアノを習っていて、全然うまくはなかったけれど、教室と家以外の場所で弾けるのは珍しかったので演奏してみたかったのだ。

下手なピアノをあかりさんやお客さんに聞かせていたのだと思うと恥ずかしい。

でも、静かな店内でふかふかの椅子に深く腰かけていると、すごく久しぶりに肩の力が抜けた気がした。

「お待たせしました」

もう何年も使われていなさそうな年季の入ったピアノをぼんやりと眺めていたら、あかりさんがクリームソーダをトレイにのせてカウンターから出てきた。