隣の席でコーヒーを飲んでいたおじいさんが、夕刊から顔を上げてこちらを見る。

軽く頭を下げると、おじいさんが微笑み返してくれた。

それからカウンターのほうに声をかける。

「おーい、あかりちゃん。ずいぶん可愛らしいお客さんだね。まさかさらってきたんじゃないだろうね?」

その言葉で、店名の『あかり』は彼女の名前から来ているのだと分かった。

あかりさん、という素敵な名前があるのに、クリームソーダのおばさん、だなんて失礼な呼び方をしていたことを改めて申し訳なく思う。

「そうなのよ、あんまり可愛いんでナンパしちゃった」

そうおどけてみせてから、あかりさんは「ていうのは冗談で」と笑って続けた。

「昔の常連さんのお孫さんなの。いつもおばあさまと一緒に来てくれてたのよ。ね、遥ちゃん」

あかりさんがこちらに話を振ったので、わたしは慌てて頷いた。

「あっ、はい。その節はお世話になりました」

「あらまあ、そんな大人っぽいことが言えるようになったのね。感慨深いわあ」

「いえ、そんな……」

「ねえ、飲み物は何がいい?」

そう訊ねられて、思わず「クリームソーダ」と即答する。

「……って、ありますか」

慌ててそう付け足すと、彼女は「もちろんよ」と答えた。

それからくすぐったそうに笑って、

「覚えててくれたのね」

と嬉しそうにつぶやく。