もう何度目かも分からないそんな考えに沈んでいると、「ねえ、遥ちゃん」と呼ばれて、はっと我に返った。

「これからおうちに帰るところ?」

「え……、あ、はい」

「じゃあ、もし門限とか大丈夫なら、少し寄っていかない?」

予想外の言葉に、わたしは目を丸くした。

「せっかく何年ぶりに会えたんだもの、お話したいわ。ああ、でも、早く帰らないと親御さんが心配なさるかしら」

「いえ、大丈夫です」

思わず即答した。それから、少し不自然だったかと思って言葉を続ける。

「あの……うち、門限とかないので。ちゃんと連絡すれば、まあ……九時くらいまでなら、全然」

わたしの答えに、彼女は無言でゆっくりとひとつ瞬きをしてから、にっこりと笑った。

「そう。それなら、一時間くらいは大丈夫ね。じゃあ、どうぞ入って」

なんだか見透かされているような気もしたけれど、わたしはこくりと頷いた。

とにかく、家には帰りたくなかった。 申し訳ないけれど、このお誘いを利用させてもらおうと思ったのだ。

我ながら卑怯だな、と内心でため息をつきつつ、でも行き場がないんだからしょうがないじゃない、と自分を正当化した。

「いらっしゃいませ」

温かい声に迎え入れられながら、店内に足を踏み入れた。

「どうぞ、座って」

そう言って窓際のテーブルにわたしを座らせると、彼女はカウンターの中に入っていった。