「遥ちゃんでしょう」

さらりと名前を言われて、わたしは驚きの声をあげた。

「えっ、あ、はい、そうです……分かるんですか」

「分かるわよ、何十回も来てくれたんだから」

彼女は当たり前のようにからりと笑った。人懐っこい笑顔だった。

「そうですか……あんな小さい頃だったのに、よく分かりましたね」

「そんなに顔変わってないわよ。昔からお人形さんみたいに可愛かったものね」

「あ……ありがとうございます」

強張りそうな顔を必死に抑えて、笑みを浮かべて頭を下げる。

昔から、顔が可愛い、と言ってもらうことはたまにあった。

友達から羨ましいと言われたことも何度かあるし、香奈たちもよく褒めてくれる。

自分で自分の顔を見ると、少しつり目気味で鼻や顎が尖りすぎているので少しきつそうに見えるのがコンプレックスなのだけれど、女の子だから可愛いと言ってもらえるのは嬉しい。

でも、素直には喜べない自分がいる。

だって、いくら可愛いと言ってもらえる顔をしていたって、わたしの恋は叶わなかった。好きな人には振り向いてもらえなかった。

多少は容姿に恵まれていたとしても、中身がぺらぺらなわたしは、彼方くんに好きになってはもらえなかった。

人を外見ではなくて内面で見て評価するちゃんとした人の目には、わたしなんてちっとも魅力的には映らないのだ。

どんな顔をしていたって、本当に好きな人に好きになってもらえないのなら、なんにも意味はない。