『どういうことなの。謝ってるひまがあったら早く帰って来なさいって』
苛々したように言うお母さんの声を、「ごめん」と遮る。
「今日、遅くなるからごはんいらない」
だめと言われるのは分かっていたので、返事は聞かずに通話を切った。
静寂が戻ってくる。
ふうっと息を吐いて、わたしはゆっくりと公園から離れた。
どこか行きたい場所があるわけでも、行くあてがあるわけでない。
でも、とにかく家には帰りたくなくて、わたしの足は家とは真逆の方向へとふらふら歩き出した。
しばらく歩いて、ふいに細い路地裏へとたどり着いた。
車一台も通れないほど狭い道の両側に、古い家や小さな飲食店がひしめくように肩を寄せ合っている。
確かに見覚えがある光景だった。
路地に踏み入って、一軒一軒確かめるようにゆっくりと歩いていくと、『純喫茶あかり』という店の前に来た。
それを見た瞬間、一気に記憶が甦ってきた。
五年くらい前に亡くなったおばあちゃんが、わたしが幼稚園くらいのころによく連れて来てくれていた喫茶店だった。
両親が共働きなので、小さいころはいつもお兄ちゃんと二人でおばあちゃんに預けられていて、買い物の帰りにはいつもここに寄って休憩していたのだ。
苛々したように言うお母さんの声を、「ごめん」と遮る。
「今日、遅くなるからごはんいらない」
だめと言われるのは分かっていたので、返事は聞かずに通話を切った。
静寂が戻ってくる。
ふうっと息を吐いて、わたしはゆっくりと公園から離れた。
どこか行きたい場所があるわけでも、行くあてがあるわけでない。
でも、とにかく家には帰りたくなくて、わたしの足は家とは真逆の方向へとふらふら歩き出した。
しばらく歩いて、ふいに細い路地裏へとたどり着いた。
車一台も通れないほど狭い道の両側に、古い家や小さな飲食店がひしめくように肩を寄せ合っている。
確かに見覚えがある光景だった。
路地に踏み入って、一軒一軒確かめるようにゆっくりと歩いていくと、『純喫茶あかり』という店の前に来た。
それを見た瞬間、一気に記憶が甦ってきた。
五年くらい前に亡くなったおばあちゃんが、わたしが幼稚園くらいのころによく連れて来てくれていた喫茶店だった。
両親が共働きなので、小さいころはいつもお兄ちゃんと二人でおばあちゃんに預けられていて、買い物の帰りにはいつもここに寄って休憩していたのだ。