「ああもう、ほんとやだ……」

電車を降りて駅を出て、周りに人がいなくなると、思わずつぶやきが洩れてしまった。

家に帰ったらお母さんから直接小言を言われるのだろうと思うと、どうしてもまっすぐ帰る気になれなくて、遠回りする道を選んだ。

うつむいて黙々と歩く。

そして、気がついたら、あの男の子に出会った公園の前に立っていた。

でも、彼はそこにはいない。

「……いるわけないよね……」

無意識のうちに、彼に会いたいと思っていたのだろうか。

あの優しい春の光みたいな歌声が聞きたい。

あの透明な硝子細工みたいな笑顔が見たい。

そう思っていたのかもしれない。

「なにしてんだろ、わたし……」

そのまましばらく誰もいない公園の真ん中に立ち尽くして、冬枯れの桜の木を見ていたら、静寂を破るように突然スマホの着信音が鳴り響いた。

嫌だなあ、と思いながら電話をとると、お母さんの甲高い声が耳に突き刺さった。

『ちょっと遥、まだ帰ってこないの? もう着くころでしょ。何してるのよ、寄り道してるの? 何時だと思ってるの? 今どこ? 』

矢継ぎ早に質問攻めにあって、そのどれにもうまく答えられなくて、「ごめんなさい」とだけ小さくつぶやく。