かっと血が頭に昇る。

どくどくと心臓が暴れて、胸の奥がぎゅうっと絞られたように痛くなった。

二人の仲睦まじい姿を目撃してしまったことも、わたしのせいで二人が周囲の目から隠れるように行動しないといけないことも、どちらもつらくて苦しかった。

ゆっくりと小さくなっていく二人の後ろ姿を見ながら、どうしようもなく苦い思いが込み上げてくる。

彼方くんが好きだ。

彼と初めて出会ったときのことを今でもまだ鮮明に覚えている。

入学したばかりでまだほとんど友達もいなかった時、体育館での全校集会の帰りに、気分が悪くなったわたしは階段のところで倒れてしまった。

遠子や香奈たちとは離れていて、他には誰も知り合いはなかった。

吐きそうになって倒れ込んだわたしを、周りの人たちは戸惑ったように遠巻きに見ていた。

経験したこともない気持ちの悪さと、みんなに見られていることの恥ずかしさで、涙が出てきた。

吐き気がひどくて、みんなが見ているところで吐いてしまったらと思うと、もう死にそうだった。

必死にハンカチで口許を押さえていたそのとき、隣にしゃがみこんで『大丈夫?』と声をかけてくれたのが、まだ存在さえ知らなかった彼方くんだったのだ。

少しでも動いたら本当に吐いてしまいそうで、返事をすることも、うなずくことも首を振ることもできなくて、せっかく声をかけてもらったのに無視する形になってしまった。

きっと気を悪くして立ち去るだろうと思ったのに、彼はそうしなかった。

『けっこうやばそうだな。保健室行ったほうがよさそうだけど、歩ける?』

優しい声に泣きそうになりながら、わたしは黙って座り込んだままでいた。

すると彼は、『無理だよな』とつぶやいてから、

『ごめん、嫌だと思うけど……ちょっとごめんな』

そう言って、わたしをゆっくりと抱きかかえた。